iシェアーズ・コア米国高配当株(HDV)分析
シーゲル二郎です。
今回は、iシェアーズ・コア米国高配当株(HDV)を分析していきます。
ブラックロック(BLK)社が取り扱っているETFで、シーゲル派に最も人気のあるETFです。
HDV(2017/9/18現在)
項目 | データ |
信託報酬 | 0.08% |
銘柄数 | 74 |
PER | 19.71倍 |
PBR | 2.91倍 |
標準偏差 | 8.84% |
配当利回り | 3.45% |
大きな特徴としては、ETFとしては銘柄数が極端に少ないことです。参考にバンガードの高配当ETFであるVYMは400銘柄を超えています。
採用基準は「安定して配当金を支払うことができる高配当バリュー株」です。連動指数は「モーニングスター配当フォーカス指数」ですが、設定元の企業分析力に左右されるので、実質アクティブファンドのようなものになっています。
高配当であっても、分析結果によっては外されることも多く、売買回転率が非常に高いことで有名です。
構成比率も、配当利回りが大きいほどウェイトが高くなるという特殊な基準で決められており、リバランスも頻繁にされます。
セクター別比率も市場平均と大きく異なります。
HDVとS&P500(2017/9/18現在)
セクター | HDV | S&P500 |
生活必需品 | 22.52% | 8.48% |
エネルギー | 18.82% | 5.92% |
電気通信 | 14.29% | 2.10% |
ヘルスケア | 11.58% | 14.71% |
情報技術 | 11.40% | 23.24% |
金融 | 6.97% | 14.21% |
公益事業 | 6.93% | 3.20% |
資本財 | 3.97% | 10.09% |
一般消費財 | 2.32% | 11.78% |
素材 | 0.79% | 2.97% |
市場平均の比率と大きく違っています。大きな特徴としては、生活必需品・エネルギーが大きな比率を占めています。これらのセクターは、シーゲル氏の調査で長期的に大きなリターンを上げていたことで知られています。
少し前まではヘルスケアセクターがトップ3になっていたので、完全にシーゲル本通りになっていました。
また、採用銘柄は全て安定高配当が基準なので、シーゲル派投資家の理想を具現化したようなETFです。
次に、上位10銘柄を調べてみます。
会社名 | 構成比率 |
エクソンモービル | 8.61% |
AT&T | 7.91% |
ベライゾン・コミュニケーションズ | 6.24% |
シェブロン | 5.45% |
ファイザー | 5.16% |
ウェルズ・ファーゴ | 4.69% |
プロクター&ギャンブル | 4.60% |
シスコシステムズ | 3.83% |
コカ・コーラ | 3.71% |
上位10銘柄 | 54.89% |
上位10銘柄の顔触れは市場平均とまったく違います。参考にS&P500のトップ3は、アップル、マイクロソフト、フェイスブックです。
上位10銘柄で過半数を超えており、かなり尖ったポートフォリオです。上位10銘柄の中身を見ると、超ピカピカのディフェンシブ銘柄ばかりで、守りに全振りしたようなメンバーです。
ETF別の配当利回りを比較してみます。(2017/9/18現在)
ティッカー(投資テーマ) | 配当利回り |
VTI(バンガード全米国) | 1.79% |
VYM(バンガード高配当) | 2.95% |
VIG(バンガード連続増配) | 2.19% |
HDV(iシェアーズ高配当) | 3.45% |
バンガードの高配当ETFであるVYMと比較しても、突出して高い配当利回りになっています。比較的少数の高配当銘柄に大きなウェイトがあてられているので、このような結果になっています。
また、金融、情報技術、一般消費財などに多く含まれる景気敏感株の比率が極端に低いので、景気後退期に強い構成になっています。
配当暮らしの人にとても人気があります。
HDVとS&P500の比較です。配当金の差があるとはいえ、最近では大きく差がつけられています。
同じくブラックロック社が運用しているS&P500ETF、IVVの5年トータルリターンが年率14.57%、HDVが年率10.73%なので、市場平均には大きく負けています。
トランプ相場から置いてきぼりなので、現在の米国市場好調が続くほど差は広がっていくと思われます。ですが、上昇相場で上がらないということは、それだけ下落に強い証拠でもあるので、1回不況を挟めば逆転する可能性も十分あります。
スマートベータに分類されていますが、かなり特徴の尖ったETFです。インデックスではありますが、もととなるモーニングスター配当フォーカス指数は、モーニングスターの企業分析力に左右されます。主なチェックポイントは次の通りです。
・事業安定性は高いか
・株価が割安かどうか
・安定した配当金が期待できるか
いずれも、アナリストの見方次第なので、人間の思考によって銘柄選定が変わってきます。そのため、本来のスマートベータとは違う運用ではあります。
競合商品であるバンガード米国高配当株(VYM)は、「市場平均を超える配当利回り」という条件で機械的に抽出しています。
何度も書いていますが、HDVはインデックスではなく、信託報酬がめっちゃ安いアクティブ運用だと思ったほうがいいです。
HDVもVYMも信託報酬は年間0.08%と激安です。バンガードでは普通の水準ですが、ブラックロックの商品の中では突出して安いです。
ブラックロック社のブランドであるiシェアーズブランドのETFは、S&P500関連以外のETFでは0.4%前後が平均的な信託報酬になっています。
例えば、HDVと同じく高配当に注目したiシェアーズ好配当株式ETFというものがあります。名前はすごく似ていますが、DVYは公益セクター比率が高いことが大きな特徴です。信託報酬は0.39%と決して安くはありません。
HDVも元々は0.4%くらいあった気がします。その後0.12%→0.08%だと思います(多分)
0.08%に引き下げた当時はバンガードのVYMが0.09%だったので、明らかに意識した結果だといえます。
素人考えで恐縮ですが、HDVは客寄せ目玉商品ということではないでしょうか?バンガード社は外部株主がいない関係上、信託報酬が激安でも問題ないですが、ブラックロック社の場合はそうはいきません。
参考記事「バンガード社の野望」
HDV以外のスマートベータETFの信託報酬が高めなのも、本来は0.4%前後が適正な水準なのではないでしょうか。
裏を返せば、HDVは無理して激安にしているだけで、今後の引き下げは難しく、人気が落ちれば引き上げもあり得るかもしれません。
シーゲル二郎は決して無視できないリスクだと思っています。
また、リターンでの懸念は、高い売買回転率です。シーゲル二郎が調べたわけではありませんが、年間70%を超えることもあるようで、長期投資では大きなロスになりかねません。
とはいえETFは仕組み上、税金や手数料はかからないので、売買に伴う余計なコストはかからないようです。
詳しくは米国株ブロガーのHiro氏の分析が非常に参考になります。
外部リンク「Grow Rich Slowly」
長期投資で有効といわれている時価総額基準インデックスのメリットは、売買が最小限なので、手数料や税金が安く済むことです。逆に言えば、手数料や税金がない世界ならば、積極的にリバランスしたほうが高リターンである可能性は高いです。
参考記事「下がってる株は買いだ!」
しかし、市場平均と異なるポートフォリオで作られたスマートベータETFは歴史が浅いので、長期にわたるデータはありません。
もし仮にシーゲル二郎の「手数料や税金がかからないならリバランスしまくったほうがいい」理論が正しいなら、その時に応じた高配当バリュー株に乗り換え続けるHDVは、市場平均を大幅に超える可能性も秘めていると考えています。
個別株投資でHDVと同じポートフォリオを組んでも、手数料や税金を無視することはできません。運用方法がETFというだけで、見えないコストカットが可能になっています。
ここまでべた褒めですが、裏を返せば企業選定ミスや売買回転率が足を引っ張って市場平均にボロ負けという未来も想像できてしまうので、シーゲル二郎はあまり好きではありません。
とはいえ、これ1本でシーゲル流投資が完結するのは素晴らしいので、ジェレミー・シーゲル氏の教えに投資人生を賭けるならこれ1本という選択肢も十分ありだと思います。
シーゲル二郎はVYMでいいです。