【書評】投資賢者の心理学

つみたて次郎です。

大江英樹氏著「投資賢者の心理学」を読んだので感想文です。

投資賢者の心理学 (日経ビジネス人文庫)

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投資に関する基本的知識や誤解について、心理面での影響を交えながら解説されています。

その中で気になった項目についていくつか紹介していきたいと思います。

 

インフレ対策と持たざるリスク

一般的に「定期預金はインフレに対応できない」といわれており、時間とともに購買力が低下していくという通説があります。

しかし実際のところ、少なくとも1951年以降については定期預金(1年物)の利率は消費者物価指数に負けておらず、定期預金で保有していても購買力を維持することができました。

「定期預金でも実はインフレに負けない」というのは何となく理解していましたが、実際のデータを交えて確認できたので参考になりました。

単にインフレ対策を考えるだけなら、無理にリスク資産を保有する必要もないということですね。ただしタンス預金はダメですよ(笑)

また、投資のリスクの1つとして「持たざるリスク」というものがあります。

「持たざるリスク」とは、上昇相場でポジションを取らないことによる機会損失のことですが、それはベンチマークと常に比較され続ける機関投資家等が意識するべきことであって、個人投資家であればほとんど考える必要はないとしています。

機関投資家の場合、上昇相場に乗り遅れるのは致命的なミスですが、個人投資家ならば特に問題はありませんからね。

つみ次郎としては、個人投資家も何らかのベンチマークを目安に相対リターンを追求していくべきだと思うので「持たざるリスク」という発想は必要だと考えていますが、過度に意識して焦らなくていいという意味では共感できます。

参考記事…絶対リターンと相対リターンについて

ウォーレン・バフェット氏の言葉を借りれば「投資に見逃し三振はない」となりそうです。

 

ドルコスト平均法を疑え

みんな大好き「ドルコスト平均法」のコーナーです。

本書全体を通してドルコスト平均法がもたらす投資面のメリットに対しては懐疑的な立場を取っています。

インデックス投資家にとっては馴染み深い山崎元氏の言葉「ドルコスト平均法は気休め」という発言についても同意しているようです。

その一方、人間の感情が入り込まない投資手法であり、最善の方法ではないとしても、少なくとも大きく損をすることにはなりにくいと思うという意見も述べられています。

ドルコスト平均法以外にバリュー平均法も感情による判断が入らない手法として挙げられています。

理論としてはやや否定、実践的な手法として推奨というのはよく見かけるパターンですが、バランスの取れた主張ではないかと思います。

 

 

信託財産留保なしという矛盾

投資信託に関して受益者が負担する主な費用は、売買手数料、信託報酬、そして売却時に発生する信託財産留保です。

ただし最近の超低コストファンドでは信託財産留保なしに設定されているものが非常に多いです。

ただし信託財産留保は売却した受益者に対するペナルティ的な側面があり、さらにそれはファンドの運用資金に組み込まれるため、一概に悪いコストとはいえません。

むしろ信託財産留保なしになっているファンドは解約した人の費用をその他大勢の保有者で負担し合うことになるので、結果として保有期間が長い人ほど損をする仕組みになっています。

これはある意味矛盾した状況なのですが、このようになってしまった理由として次の2つが挙げられています。

・他社が「なし」なのに自社だけ「あり」にはしずらい。
・上記の理屈を個人投資家に浸透させるのは難しい。

どちらもかなり核心をついているのではないかと思います。

これは売買手数料無料なノーロード投信が現在の主流になっている原因にもつながるのではないかと思います。

参考記事…売買手数料が無料なノーロード投資信託は長期投資に向いてない?

 

人間心理がもたらす具体例

「投資賢者の心理学」というタイトル通り、本書全体を通じて人間心理についての考察が非常に多いです。

例えばとある銘柄に強気な顧客がいたとき、金融機関の販売員は下手にアドバイスして顧客の機嫌を損ねるよりも、相手に花を持たせるために後押ししてあげたほうが好印象といった具合です。

ようするに「これを選ぶなんてお客様はお目が高いですね(嘘)」というようなセールストークになってしまうということですね。

再びバフェット氏の言葉を借りれば「散髪したらいいかを床屋に聞いてはいけない」となります(笑)

また、値上がった銘柄を売り渋っている顧客に「他の人からの売り注文がかなり入っています」というと手の平を返して売却したという話も印象に残りました。

どれも冷静に考えれば当たり前の話ですが、人間心理というのは必ずしも合理的な判断ができるわけではありませんし、利害関係者同士の思惑があるならばなおさらですね。

 

小さな本に大量の情報

kindle版より紙版のほうが安かったので、久しぶりに電子書籍ではない普通の本で買いました。

文庫本サイズで比較的サクサク読み進められましたが、考察されているジャンルが幅広いので読みごたえがありました。

文字量に対する密度という意味では、これまで読んだ投資本の中でもトップクラスかもしれません。

上記で紹介した以外についても投資に関する基本的な知識も広く浅く網羅されているので、投資初心者でも読みやすいのではないかと思います。

 

投資というのはガチガチ理論で固めていくというイメージがありますが、つみ次郎としてはむしろ心理面で工夫できるポイントが多い存在ではないかと思っています。

世界最高の頭脳集団でも普通に爆損する世界ですし、バリュー投資やモメンタム投資なども人間心理がもたらすアノマリーであると考えています。

特にインデックスへの長期投資においては、既に理論面での結論はほぼ完成しているので、後はどれだけ忠実に実践できるかが最も重要といっても過言ではありません。

その成否を大きく左右するのが人間心理だと思っているので、本書を通じて様々な感情について知ることができてよかったです。

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