無分配投信 VS 有分配投信 (外国税額控除適用あり) でシミュレーション

つみたて次郎です。

投資信託の種類によって分配金の出す頻度や金額は大きく異なっており、毎月分配金を出すものから、一切分配金を出さないものまで様々です。

一般的に、同じ投資対象同士であれば、分配金を出さないほうが利益に対する課税タイミングを遅らせることができるため、トータルリターンで有利に働くことが多いです(税の繰り延べ効果)

そのため一切分配金を出さないファンド(通称:無分配型投信)を好んで選んでいる方も多いです(つみ次郎含め)

しかし2020年より、税制の変更により分配金を出すファンドのほうが有利になるかもしれないというデータが大和総研グループより発表されています。

参考記事…2020年以降は分配金の出る投資信託のほうが有利になる?
外部リンク…投資信託の外国税額控除の制度解説とファンドに及ぼす影響の試算

外国株に投資する場合、売却益に対しては国内課税のみで済むことが多いですが、配当金については外国で課税→日本で課税という二重課税になってしまうことがほとんどです。

場合によっては三重課税になるケースもあります。

参考記事…投資信託やETFにおける三重課税問題について

例えば配当利回り2%の米国株を持っていた場合、配当金に対してまず米国で課税されてしまいます(米国株の場合は10%課税)

その後、日本で約20%※¹課税されてしまうので、結果として元の配当金のうち約30%※²が税金として取られてしまうことになります。

※¹正確には所得税15.315%+住民税5%=合計20.315%になります。
※²厳密には単純な足し算ではないので、実際の税率は28.2835%になります。本記事では分かりやすく30%ということにします。

しかし個人の場合、外国税額控除をすることで、外国で課税された分の一部または全部を取り戻すことが可能です。

配当利回り2%のうち10%課税だと、単純計算で年間0.2%程度トータルリターンが棄損されることになります。

そして、2020年からは個人だけでなく、公募投資信託(ごく普通に買える投信)でも外国税額控除を適用できるようになり、上記の例で言う年間0.2%相当の税金を取り戻すことができる可能性が出てきました。

場合によってはインデックスファンドの信託報酬相当額のコストを穴埋めできる可能性もあり、トータルリターンの向上に大きく役立つという期待があります。

投信運用に関する内容なので、税制の変更がどれだけ実際のリターン改善につながるか、運用会社がそれを把握して臨機応変に分配金を出すようになるかは不明ですが、せっかくなので簡単なシミュレーションをしてみたいと思います。

 

無分配投信 VS 有分配投信

これまではほかの条件が一緒であれば、無分配型投信が絶対正義といえるような状態でしたが、今回その前提が覆ることになりそうなので、分配金なしVS分配金ありで対決させてみたいと思います。

また、分配金ありについては外国税の取り戻し具合によって3パターン用意し、合計4パターンで計算してみます。


〇共通条件

・年初に100万円を一括投資する。
・値上がり益は年間5%、配当金は年間2%とする。
・配当金は年末に出て即再投資するものとする。
・配当課税は外国で10%、日本で20%とする。
・売却益課税は20%とする。


①分配なし(無分配型)

・現状の無分配型投信に近いイメージ。
・ファンドからの配当がないため外国税額控除関係なし。
・配当金2%のうち外国税10%を引いた1.8%をファンド内で再投資。
・基本的な年間リターン(税引前)は5%+1.8%=6.8%になるが、配当課税を繰り延べしているため売却益課税は大きくなる。


②分配あり(還付なし)

・現状の有分配型投信に近いイメージ。
・配当金2%から外国税10%と国内課税20%を引いた1.4%を分配。
・基本的な年間リターン(税引前)は5%+1.4%=6.4%になる。


③分配あり(半額還付)

・新制度にて、外国課税を半額だけ取り戻せたイメージ。
・配当金2%から外国税10%の半分(=5%)と国内課税20%を引いた1.5%を分配。
・基本的な年間リターン(税引前)は5%+1.5%=6.5%になる。


④分配あり(全額還付)

・新制度にて、外国課税を全額取り戻せたイメージ。
・配当金2%から国内課税20%を引いた1.6%を分配。
・基本的な年間リターン(税引前)は5%+1.6%=6.6%になる。

 

 

シミュレーション結果(元利合計)

4パターンについて、投資期間が1年・10年・20年・30年だった場合、100万円が以下のように増えました(単位:万円)

 無分配型  還付なし  半額還付  全額還付
 1年 105.4 105.4 105.5 105.6 
 10年 174.5 171.7 173.3 174.9 
 20年 318.2 301.9 307.6 313.3
 30年 595.7 538.7 553.7 569.2

 

それぞれ投資期間の終了時点で売却した場合の税引後元利合計です。

投資期間が1年及び10年の場合は分配なし(全額還付)が最も良い成績ですが、投資期間が20年及び30年の場合は分配なし(無分配型)が最も良い成績になっています。

ちなみに逆転する年数は投資期間が13年の時になっていました。

無分配型が最終的に逆転するのは何となく予想できていましたが、想像よりかなり早いタイミングだったので驚きでした。

外国課税を取り戻せないデメリットよりも、分配しないことで配当課税を繰り延べるメリットが上回った形になります。

 

シミュレーション結果(年率)

上記グラフを年平均リターンに直すと次のようになります。

 無分配型  還付なし  半額還付  全額還付
 1年 5.44% 5.40% 5.50% 5.60%
 10年 5.72% 5.55% 5.65% 5.75%
 20年 5.96% 5.67% 5.78% 5.88%
 30年 6.13% 5.77% 5.87% 5.97%

 

いずれも値上がり益課税の繰り延べ効果があるため投資期間が長いほど1年間当たりのリターンは改善されていきますが、無分配型は特にその恩恵が大きいです。

簡易な試算ではありますが、外国税額控除を最大限活用できた場合でも無分配型が有利になる可能性もあるということになります。

 

投信業界にどう影響をもたらすか?

今回の試算では無分配型が最終的に有利にはなりましたが、実際はこのような単純な計算でリターンが決まるわけではないので、あくまで参考程度にとどめてください。

少なくとも大和総研グループのレポートを見る限りでは、分配するほうが有利になる可能性もあるという結論が出ていますし、今回のシミュレーションにおいても投資期間が短い場合は分配したほうが有利になるという結果になっています。

外部リンク…投資信託の外国税額控除の制度解説とファンドに及ぼす影響の試算

インデックスファンドにおいては年間0.1%という数字は誤差といえない水準になっているので、分配金を出すか出さないかでトータルリターンが多少変わってくるのであれば、投信業過にも影響を与える問題になっていくかもしれません。

税制に合わせて適切な分配金を吐き出すファンドが最も効率的になるのであれば、これまでの無分配神話も崩れることになります。

その一方、多少リターンが改善するからと言って、分配金を積極的に出すファンドが増えるかといわれると、個人的にはすぐ普及することはないと思っています。

投資に関する誤解としてよくあるのが「分配金=プラスリターン」と勘違いしてしまうことですが、逆に分配金を出すファンドが有利になってしまえば、ますます分かりづらい状況を作ることになってしまいます。

「毎月分配型投信」のようなタコ足配当を続けるようなファンドが人気を集めている状況を見かねて、金融庁が直々に分配金を出しまくるファンドに対して警告をしているくらいですからね。

出典「金融庁

T-213
少し前まで鰐じゃなくてワイが載ってたんやで

また、一般NISAやつみたてNISAにおいては、分配金再投資をすると枠を消費してしまうので、相対的に非課税投資額が減ってしまうという問題があるため、分配金を積極的に出すファンドとは相性が悪いです。

個人的には、投資リターンはトータルリターンでシンプルに評価したいので、無分配型のほうが分かりやすいという理由もあります。

基準価格で単純に比較できるのも便利ですからね。

いろいろと懸念はありますが、ただでさえ分かりづらい投信の選び方に「節税を意識した分配金の出し方をしているか」という新たな要素が増えてしまうというのが一番厄介だと思います。

無分配型なら「分配ゼロ」で横並びなので比較しやすいですが、分派金を出すならファンドごとの分配傾向なんかも考慮する必要があります。

つみ次郎のような投信マニアにとっては、純粋にリターン改善につながる可能性があるため歓迎の立場になるかと思いますが、普通に資産運用を検討している人にとってはかなり複雑な話になってしまいそうですね。

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毎月分配次郎

無分配投信 VS 有分配投信 (外国税額控除適用あり) でシミュレーション” に対して1件のコメントがあります。

  1. たなかなか より:

    1年目は①106.8万円、②106.4万円…になるような気がするのですが、詳しい計算を教えていただけませんか?
    よろしくお願いします。

  2. つみたて次郎 より:

    >>たなかなか様

    記事中に明記していませんでしたが、それぞれ売却益を考慮した課税後の元利合計になっています(記載するのを忘れていたので追記しました)
    それぞれ1年目だと、次のような計算になります。

    ①分配なし(無分配型)
    ・売却益は68,000円なので、売却益課税は68,000×20%=13,600円
    ・なので1,000,000円+(68,000円-13,600円)=1,054,400円

    ②分配あり(還元なし)
    ・売却益は50,000円なので、売却益課税は50,000円×20%=10,000円
    ・配当金は20,000円のうち、30%が国内外で課税されるため14,000円
    ・なので1,000,000円+(50,000円-10,000円)+14,000円=1,054,000円

    無分配型のほうが若干良い成績ですが、記事中の表では四捨五入の関係で両方とも「105.4」と記載しています。
    年リターンのほうでは「5.44%」「5.40%」になっています。

  3. アオキ より:

    コメント失礼します。
    初歩的な事で大変申し訳ないのですが、海外ETFのVYMやSPYDといった銘柄の配当金もこの2020年からの外国税額控除の対象となるのでしょうか?
    自分なりに調べたのですが、どうも分からず、もしご存知でしたら教えていただけますでしょうか?

  4. つみたて次郎 より:

    >>アオキ様

    コメントありがとうございます。
    質問の意図が複数読み取れましたので、私がわかる範囲でお答えさせていただきます。

    ・個人投資家が海外ETF(VYM,SPYD等)を直接保有する場合の事であれば、今回の制度改正関係なく外国税額控除は適用可能で、個別株同様確定申告をすることで還付を受けられる可能性があります。

    ・投資信託経由でで間接的に海外ETFを保有する場合(ファンド・オブ・ファンズ形式の投信,楽天バンガード等)については、私もよくわかりませんでした。レポートの5ページ及び7ページで言及されていますのでよろしければご確認ください。
    https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/tax/20190612_020839.pdf

    参考になれば幸いです。

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