【PER・PBR】自社株買いによる各種指標の変化について【ROE・配当利回り】
つみたて次郎です。
近年では配当に代わる第二の株主還元として自社株買いがもてはやされています。
市場に出回る株式発行数が減るため、1株当たりの利益(EPS)等が向上し、ひいては株価の上昇につながることが多いです。
ただし、理論上はあくまで株主リターンに中立であり、株価に直接影響を与えません(多分)
自社株買いによって様々な指標が変化しますが、一言で言えば企業レバレッジが高まりハイリスクハイリターンな経営になるというのがつみ次郎の感覚です。
今回は、自社株買いによって変化する指標について考察していきたいと思います。
具体的なシミュレーション
以下のような企業があると仮定して、自社株買いした場合の指標の変化についてシミュレーションしていきたいと思います。
項目 | 数値 | 備考 |
発行株式数 | 100枚 | 適当に決めた |
株価 | 30,000円 | 適当に決めた |
当期純利益 | 500,000円 | 適当に決めた |
配当合計 | 60,000円 | 適当に決めた |
資産合計 | 10,000,000円 | 適当に決めた |
負債合計 | 8,000,000円 | 適当に決めた |
純資産合計 | 2,000,000円 | 資産合計-負債合計 |
時価総額 | 3,000,000円 | 発行株式数×株価 |
EPS | 5,000円 | 当期純利益÷発行株式数 |
BPS | 20,000円 | 純資産合計÷発行株式数 |
DPS | 600円 | 配当総額÷発行株式数 |
PER | 6.0倍 | 株価÷EPS |
PBR | 1.5倍 | 株価÷BPS |
配当利回り | 2% | DPS÷株価 |
ROE | 25% | 当期純利益÷純資産合計※1 |
ROA | 5% | 当期純利益÷資産合計 |
財務レバレッジ | 5倍 | 資産合計÷純資産合計※2 |
※1…厳密には純資産ではなく株主資本。
※2厳密には純資産ではなく自己資本。
そしてこの状態から、60万円を使って自社株買いを行うこととします。
自社株買いを行うと、現金(資産の一部)と純資産が減ります。
株価は現在30,000円なので、株価が変わらないと仮定すれば20株買い戻すことができるため、発行株式数も減ります。
自社株買い後の指標の変化は以下の通りです。
項目 | 変更前 | 変更後 |
発行株式数 | 100枚 | 80枚 |
株価 | 30,000円 | 30,000円 |
当期純利益 | 500,000円 | 500,000円 |
配当総額 | 60,000円 | 60,000円 |
資産合計 | 10,000,000円 | 9,400,000円 |
負債合計 | 8,000,000円 | 8,000,000円 |
純資産合計 | 2,000,000円 | 1,400,000円 |
時価総額 | 3,000,000円 | 2,400,000円 |
EPS | 5,000円 | 6,250円 |
BPS | 20,000円 | 17,500円 |
DPS | 600円 | 750円 |
PER | 6.0倍 | 4.8倍 |
PBR | 1.5倍 | 1.7倍 |
配当利回り | 2% | 2.5% |
ROE | 25% | 36% |
ROA | 5% | 5.3% |
財務レバレッジ | 5倍 | 6.7倍 |
自社株買いにより純資産が減るため、BPSやPBRは改悪されます。
その一方、純資産(厳密には株主資本)を分母として計算を行うROEが大きく改善していることが分かります。
資産合計(負債+純資産)を基準に計算するROAも若干ですが改善しています。
また、発行株式数が減ったことで1株当たりのEPS(純利益)やDPS(配当)が改善されるため、PERや配当利回りは割安になります。
自社株買いによる指標の変化まとめ
・BPSとPBR→純資産の減少によりマイナス効果
・EPSとPER→発行株式数の減少によりプラス効果
・DPSと配当利回り→発行株式数の減少によりプラス効果
・ROEとROA→純資産及び資産の減少によりプラス効果
・財務レバレッジ→純資産の減少により増加する
自社株買いの本質は財務レバレッジ
自社株買いと言えば、発行株式が減ることで1株当たりの利益が改善する…という話から始まることが多いですが、財務レバレッジの増加こそが本質であるとつみ次郎は考えています。
個人投資家がレバレッジをかけるときは信用取引やレバレッジETFを用いたりしますが、企業にとってはその手段の1つが自社株買いであるといえます。
常に安定してキャッシュを稼ぐことができる企業であれば、手持ちの現金を蓄える必要はありませんし、財務レバレッジをどんどん増やして株主リターンを追及していく事ができます。
裏を返せば、何かの拍子に安定したキャッシュを稼げなくなった場合にその反動が来ることになります。
適切なレバレッジというものは投資家にとっても企業にとっても薬となりますが、人間は欲深い生き物ですので、適切なレバレッジで満足できずかけすぎて毒になる…というケースはそう珍しくはありません。
特に米国では自社株買い等のやりすぎで債務超過になる企業が続出しているようですが、どちらに転ぶとしても今後も米国株のリターンを左右することになりそうです。
参考記事…【悲報?】米国で債務超過企業が増加中
ちなみに今回は自社株買いに焦点を当ててきましたが、配当金再投資でも似たようなことが起きます。
配当金を出すと企業からキャッシュという資産が流出しますので、財務レバレッジは増加します。
その一方、再投資することによって保有株数を増やすことができますので、その企業に対する権利を増やすことができます(例:もらえる配当金がだんだん増える)
また基本的な話になりますが、どれだけ企業が株主還元(自社株買い+配当)を行おうともそれ以上に純利益を稼ぐのであれば財務レバレッジは減少します(笑)
純利益に対する株主還元のバランスという視点も必要になるという事ですね。
自社株買いも配当も無条件で喜ばれるものではなく、財務レバレッジの調整役という側面もあるということは押さえておきたいところです。
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