自社株買いをすると株価や時価総額はどうなる?
つみたて次郎です。
今回は、自社株買いが株価や時価総額にもたらす影響について考察していきたいと思います。
先に予防線を張っておきますが、つみ次郎は金融や会計のプロではありませんので、説明に誤りや誤解を生む場合があるかもしれません。
本記事も解説記事というよりは、つみ次郎自身の解釈をまとめているだけですので、気になる部分があればコメントにてご指摘いただければ助かります。
また、本記事では株価=1株当たりの企業価値とみなして話を進めていきますので、その点はご了承ください。
自社株買いとは?
おさらいですが、自社株買いとは企業が自社の株を市場から買い戻すことで株主還元を行う事です。
自社株買いをすることで発行株式数が減り、結果として1株当たりの利益(EPS)等が向上します。
また、自社株買いをするということは「自社の株価はまだまだ割安である」という経営陣からのメッセージとして捉えることができるため、一般的には株価上昇につながることが多いです。
株主還元と言えば直接キャッシュを吐き出す配当金支払いという方法が最も基本ですが、自社株買いは第二の株主還元ともいえる存在です。
配当金支払いによる影響
さっそく自社株買いの影響について考察…をする前に、分かりやすいようまずは配当金に関する考察をまとめておきます。
配当金というのは、企業側から見れば現金(キャッシュ)が減ることを意味しますので、企業全体の資産や純資産は減少します。
簿記で言えばこんな感じ(科目は適当です)
借方 | 貸方 |
配当(純資産の減少) | 現金(資産の減少) |
そのため、その他の要因を無視すれば配当金を出せばその分時価総額は下がると理論的にはいえます。
また、時価総額は減っても発行株式数は特に減らないため、株価(時価総額÷発行株式数)も下がることになります。
ここまでは非常に簡単な話で、つみ次郎としても直感的に違和感のない結論です。
配当金支払いによる影響
・時価総額→減る
・株価→減る
・発行株式数→変わらない
自社株買いによる影響
やっと本題です。
自社株買いも配当金支払いと同じく、企業側から見れば現金(キャッシュ)が減ります。
ただし配当金とは異なり、現金の対価として自社株を入手することができます。
簿記で言えばこんな感じです(科目はまた適当)
そのため、企業内の現金の一部が自社株という資産に置き換わっただけであり、自社株買いをした時点では企業全体の資産や純資産は変わりません。
会計上、自社株は純資産の減少として計上されるようですが、自社株買いをした時点では株式の所有者が変動しているだけであり、発行株式数も減っていはいません※
※市場に流通する株数が減るので「実質的には減っている」とされますが、計算上減らないと仮定します。
時価総額も発行株式数も変わらないため、株価(時価総額÷発行株式数)も変わりません。
自社株買い(消却なし)による影響
・時価総額→変わらない
・株価→変わらない
・発行株式数→変わらない※
※会計上は減ったことになり、EPS等も向上する。
※同日追記…自社株を消却しない場合の時価総額については不明な部分があったので、項目ごと削除しました。
自社株消却した場合の影響
自社株買いによって発行株式数は減るとされますが、真に減るのは企業が自社株を消却したタイミングです。
文字通り株券がこの世から消滅することで発行株式数が減少し、1株当たりの利益(EPS)は向上することになります※
※厳密には消却せずともEPS等は向上しますが、消却をイメージしたほうが分かりやすいと思います。
株価は時価総額÷発行株式数ですので、その分母が減ることで株価は上がる…というのが一般的な見解ですが、自社株買いをした時点で時価総額が減っているという事を考慮すると、株価に中立ではないかとつみ次郎は考えています。
例えば、以下のような会社があったとして、自社株買い→消却までの流れについて確認していきたいと思います。
項目 | 数値 | 備考 |
発行株式数 | 100枚 | 適当に決めた |
株価 | 30,000円 | 適当に決めた |
当期純利益 | 500,000円 | 適当に決めた |
純資産合計 | 2,000,000円 | 適当に決めた |
配当総額 | 60,000円 | 適当に決めた |
時価総額 | 3,000,000円 | 発行株式数×株価 |
EPS | 5,000円 | 当期純利益÷発行株式数 |
BPS | 20,000円 | 純資産合計÷発行株式数 |
DPS | 600円 | 配当総額÷発行株式数 |
PER | 6.0倍 | 株価÷EPS |
PBR | 1.5倍 | 株価÷BPS |
配当利回り | 2% | DPS÷株価 |
そして、上記会社の貸借対照表が以下のような場合を仮定します。
借方 | 貸方 |
現金 1,000万円 | 借入金 800万円 |
純資産 200万円 | |
合計 1,000万円 | 合計 1,000万円 |
そして今持っている現金1,000万円のうち、60万円を使って自社株買いしたとします。
1株当たり株価は3万円なので、20株買うことができる計算になります。
そしてその自社株を消却した場合、その分は純資産の減少として計上されます。
また、自社株買いに使った現金も当然減少します。
借方 | 貸方 |
現金 940万円 | 借入金 800万円 |
純資産 140万円 | |
合計 940万円 | 合計 940万円 |
上記の自社株を20株買戻し→すぐに消却という行動を行った場合、各指標も以下のように変化しています。
項目 | 自社株消却前 | 自社株消却後 |
発行株式数 | 100枚 | 80枚 |
株価 | 30,000円 | 30,000円 |
当期純利益 | 500,000円 | 500,000円 |
純資産合計 | 2,000,000円 | 1,400,000円 |
時価総額 | 3,000,000円 | 2,400,000円 |
EPS | 5,000円 | 6,250円 |
BPS | 20,000円 | 17,500円 |
DPS | 600円 | 750円 |
PER | 6.00倍 | 4.80倍 |
PBR | 1.50倍 | 1.71倍 |
配当利回り | 2.0% | 2.5% |
自社株消却によって発行株式数と純資産が減ったことで、様々な指標にも影響を及ぼすことになります。
特に押さえておきたいのは次の3点です。
・自社株消却によって時価総額(≒全体の企業価値)は下がっているが、株価(≒1株当たりの企業価値)は変わっていない
・自社株消却によってEPSやDPSが向上するため、PERや配当利回りは割安になる。
・自社株消却によってBPSは低下するため、PBRでは割高になる※
※元々のPBRが1倍を下回っている場合はPBRも割安になる。
要するに自社株消却とは1株当たりのBPS(純資産)を犠牲にしてEPS(純利益)やDPS(配当)を伸ばす行為であるといえます(元々のPBRが1倍を上回っている場合)
結果として企業レバレッジが高くなるため、よりハイリスクハイリターンな経営になるといえます。
これの究極が、米国企業でたまにある「借入金で自社株買いしまくって債務超過」という状態ですね(笑)
企業のサイズを小さくする代わりに少数の株主で独り占めする…そう考えると自社株買いはやはり経営陣の自信の表れといえますね。
自社株買い(消却あり)による影響
・時価総額→減る
・株価→変わらない
・発行株式数→減る
配当金支払いと自社株買いを比較
これまでの各結論をさらにまとめてみます。
配当金支払い | 自社株買い | |
時価総額 | 減る | 減る |
株価 | 減る | 変わらない |
発行株式数 | 変わらない | 減る |
自社株買いで発行株式数が減るというのは当たり前と言えば当たり前の話ですが、時価総額と株価が減るという事に関してはあまり見かけないような気がします。
一般的に自社株買いは株価上昇につながると言われていますし、時価総額をキープできる水準まで株価が上がる…という話もあります。
しかし、自社株買いで理論上の株価が上がるのであれば、それは一種のフリーランチになってしまいますし、株価に中立でなければ筋が通りません。
また、株価に対して中立であれば、時価総額(株価×発行株式数)も減るのも必然…というのがつみ次郎の解釈です。
自社株買いの影響まとめ
自社株買いは株価に中立という結論を出しましたが、現実的には自社株買い発表による市場の反応だったり、買い注文による需給への影響などによって株価が上がることが多いです。
あくまで理論上の話であり、
・市場参加者が必ず合理的な売買を行う
・企業経営陣が常に適切な資本政策を行う
といった非現実的な前提が揃って初めて株価に対して中立であるといえるのかもしれません(効率市場仮説みたいな)
ただ、自社株買いで株価が変わらないというのは配当落ちで株価が下がると同じぐらい当たり前の話なので、逆にこの説明を他のブログやサイト等であまり見かけないのが非常に不気味です。
つみ次郎も色々ググってみましたが、シンプルに納得できるような説明の記事がなかったため、今回記事にまとめてみた次第です。
冒頭にも書いたように、あくまでつみ次郎の解釈なので一部(全部?)間違っている部分があるかもしれませんので、詳しい方がいればコメント欄で教えていただければ助かります。
特に一番モヤモヤしているのは、自社株を消却した場合としない場合の差についてです。
自社株買いしても消却しなければその株はこの世に確かに存在しており、企業の資産として計上されるのに、議決権や配当は停止されている…つみ次郎の理解が追いつきません(辛)
また、つみ次郎のまとめだと自社株を消却した時点で時価総額が減るという解釈になりますが、実際は自社株買いされた時点で発行株式数は減るとみなされるため、焼却せずとも自社株買いされた時点で時価総額も減っているのではないか?という疑問もあります。
自社株買いと時価総額についてはまだまだ理解不足な所もあるので、本記事を炎上させて議論を盛り上げていただければと思います(白目)
おまけ
記事執筆のきっかけになったTwitterでのやり取りです。
つまり自社株買いは企業全体の価値と発行株式数の両方を減少させる行為であり、株価に直接影響を与えない(配当金再投資と理論上は同じ)
私の理解だとこんな感じですw
— つみたて○太 (@tsumitatejiro) February 1, 2020
興味のある方はリプライの前後を見ていただけると何か学びがあるかもしれません(自画自賛)
ブログ村ランキング
じしゃかぶ次郎
記事を興味深く読ませていただきました。
時価総額が減ったのと同じ割合で株数も減ったから、株価が変わらない、というお話かと理解いたしました。
自社株を20株買戻し→すぐに償却 したときに、時価総額が240万になる根拠は、時価総額300万-60万でしょうか?株価30000×発行株式数でしょうか?
前者の場合、20株を60万で買える、という計算が、そもそも自社株買いの過程で株価が変わらないという前提に立ってしまっています。
後者の場合も、株価が変わらないことを前提に時価総額240万という値を出し、時価総額240万と発行株式数が同じ割合で減ったから自社株買いで株価が変わらないという結論を出すのは、「株価が変わらないという前提に立つと株価が変わらない」と言っているのと同じであるように感じてしまいました。
個人的には、自社株買い後の株価は、自社株買い前とPERが変わらなくなるところまで動く、とかの方が納得感があります。
>>SPXL検討中様
おっしゃる通り「自社株買いしても株価釣り上がらない」という前提で計算しているため、株価が変わらないという結論ありきな部分はあります。
自社株買いは実際に市場で買い注文を出すので、シンプルに需給のバランスで株価が上がる…という反論に対する答えも残念ながら思いつきません(笑)
PERを基準に株価が動くという説もありますが、その場合は純資産の減少(BPSやPBRに影響)も考慮する必要があり、自社株前と後で適切なPERは(どちらに転ぶとしても)同じにはならないでは?と私は考えています。
なるほど、確かに単一の指標だけで自社株買い後の株価の推定をするのは無理があるかもしれませんね。
ご返信ありがとうございました。