フィリップモリス・インターナショナル(PM)分析
シーゲル二郎です。
今回は、フィリップモリス・インターナショナル(PM)を分析していきます。
多国籍タバコ企業でシェア1位です。「マルボロ」や「iQOS」が有名です。
連続増配…9年
S&P格付…A
採用インデックス
・S&Pグローバル100
・S&P500
タバコを吸う人ならご存知の企業かと思います。シーゲル二郎は投資の勉強中に始めて知りました。
世界№1のタバコブランド「マルボロ」を保有しており、その他多くの銘柄を保有しています。もともとは現在のアルトリアグループ(MO)と同じ会社でした。2008年に、国際部門をスピンオフされて誕生したのが現在のフィリップモリス・インターナショナルです。
そのため、アルトリアは米国内売上100%、このフィリップモリスは米国外売上100%と、棲み分けがされています。そのため、販売するブランドはどちらも同じです。
2つに分けた主な理由は、米国での訴訟リスクを抑えるためです。ダイナミックな企業戦略ですね。
タバコ業界は事情が複雑なので、まずは各企業を紹介します。
●フィリップモリス・インターナショナル(PM)…世界№1ブランド「マルボロ」を保有。米国シェア1位で、海外展開もしていたが、米国内での訴訟が怖いので、米国内事業は下のMOとして分離した。そのため米国外売上比率100%
●アルトリアグループ(MO)…上のPMから分離した米国内部門。当たり前だが「マルボロ」もちゃんと売ってる。米国内売上比率100%。
●レイノルズ・アメリカン(RAI)…上記に次ぎ米国内では2位のシェア。ほぼ米国内でしか展開していない。近いうちにBTIに買収される予定。
●ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BTI)…米国ではやる気がないが、それ以外では高いシェアを誇る。米国内にも手を出したかったので、RAI株を保有して子会社にしていた。だけど物足りなくなり完全に買収することが決定した。
●JT(日本たばこ産業)…ちゃっかり世界シェア3位。売り上げの半分は日本で、残り半分は海外。米国では訴訟リスクとかなんちゃらがあってほとんど売ってない。
●中国煙草総公司…上記に負けず劣らず名前がかっこいい、中国のタバコ会社。中国ではタバコは専売制であり、この会社しか売ることができない。中国内でしか販売していないが、中国人はタバコ大好きのため、世界シェアの半分を占める。上の4つが束になっても勝てない。
勢力別に色分けしました。同じ色は仲間みたいなもんです。世界シェアの半分が中国であり、中国煙草公司しか売ることができないということと、米国内と米国外で全く違う事情があるということを抑えてください。
出典「Philip Morris International」
米国と中国を除いた世界シェア一覧です。米国はJTとフィリップモリスが参入していないこと、中国は専売制なので競争にならないという理由で省いています。グラフに出ているBATはブリティッシュ・アメリカン・タバコのことです。ティッカーはBTIですが、社名の略はBATなので注意してください。
上位3社ので7割近くを占めている寡占市場です。タバコ業界は新興国では成長産業ですが、多くの先進国では人口減少や健康意識の高まりにより衰退産業に分類されています。そのため、各社買収による事業拡大がさかんです。
タバコは政府による規制が多く、広告を派手に行うことができません。また、お気に入りのブランドはなかなか変わらないので、固定客が非常に多いです。そのため、この勢力図は簡単には動きません。トップのフィリップモリスはもちろん、BATやJTも安泰でしょう。
出典「Philip Morris International」
世界のタバコブランドランキングです。一番左のものがマルボロであり、圧倒的首位です。2位は日本たばこ産業(JT)が保有する「ウィンストン」ブランドです。1位のマルボロは2位に2倍近くの差をつけており、いかにマルボロが一人勝ちしているかが分かります。
上位15ブランドのうち、6つを保有しており、業界№1の実力は本物です。
また、従来の紙巻タバコだけでなく、電子タバコの開発にも各社注力しています。
企業名 | 電子タバコ |
フィリップモリス&アルトリア | iQOS(アイコス) |
ブリティッシュ・アメリカン・タバコ | glo(グロー) |
JT(日本たばこ産業) | プルームテック |
電子タバコには、ニコチンが含まれない禁煙治療目的のものと、ニコチンが含まれる紙巻タバコの代用品としてのものがあります。今話題になっているiQOSなどは、ニコチンが含まれるものです。
つまり、紙巻タバコそのものが、将来的には電子タバコに置き換えられる可能性もありえます。2050年ごろには、電子タバコが主流になるのではという予想もあり、成長産業です。これらのニコチン入り電子タバコは、受動喫煙による周囲への被害が少ないため、非喫煙者が多い先進国での普及が期待できそうです。
地域別では、もちろん米国は含まれておらず、海外売上比率100%です。そのため、通貨分散としては非常に優秀ですが、ドル高の影響は大きいです。
タバコは嗜好品ですが、依存性が高いので不況でも買われ続けます。売上の安定性も驚きですが、利益率がおかしいです。
美しすぎる。営業CFマージンは30%前後で推移しており超超高収益です。紙巻タバコの製造には特別な設備投資も不要なので、投資CFも非常に少ないです。お金を刷っているような事業です。
2008年に分離して誕生した企業なので、ちょうど最初からありますね。配当性向は100%に近付いており、儲けをそのまま配当金として渡しています。設備投資不要、高収益、高配当、低成長とシーゲル流の理想ともいえる企業です。
過去最高のクレイジーなグラフです。2012年から債務超過に陥っています。グラフだと見えずらいですが、直近の自己資本比率は-34.43%で、資産より負債が大きく超過しています。通常の企業なら倒産待ったなしですが、安定したフリーCFがあるフィリップモリスだから許される財務状況です。
生活必需品セクターでは、マクドナルド(MCD)、コルゲート・パルモリーブ(CL)なども債務超過ですが、これらはギリギリ負債が資産を超えるようなレベルなので、フリップモリスはとんでもない綱渡りをしているともいえます。
現在の低金利を生かして借金して自社株買いをするのが流行していますが、フィリップモリスはもともと儲けをほとんど配当金として払っているので、自社株買いの原資はほぼ借金からということです。
現時点情報(2017/9/14)
株価…116.86ドル
予想PER…24.07倍
配当利回り…3.65%
連続増配…9年
高配当バリュー株の代名詞でしたが、ここまで上がるとバリューでもないです。配当性向を考えると、配当余力も少なく、高配当という肩書も消えてしまいそうです。
株価を考えなければ、これほどシーゲル派に相応しい銘柄はありません。何を隠そうこのフィリップモリスは、過去の米国株の中で断トツ1位のリターンを叩き出しています。厳密には、アルトリアと分社化する前のフィリップモリスがですが。
1957年~2003年におけるS&P500のリターンは、年利10.85%でした。(これも十分すごいけど)19.8
186.2フィリップモリスは、年利19.75%を叩き出しており、圧倒的です。それほど大きな差に見えませんが、長期投資では大きな差です。
仮に、長期投資の目安である30年間保有し続けた場合のトータルリターンを考えてみます。
投資して30年間配当金再投資を続けていたら最初の資金が…
・S&P500・・・19.8倍
・フィリップモリス・・・186.2倍
最終的には10倍近い差が生まれました。フィリップモリスに長期投資した人は、莫大なリターンを得ることができました。とはいえ、フィリップモリスの歴史の中では、訴訟で敗北、値下げで株価暴落といったさまざまな悪材料により、投資家から見放される場面が多くありました。
これらの誰もが見捨てたときでも保有し、なおかつ配当金を再投資するというのは、通常の精神力では不可能です。また、現在でこそフィリップモリスは世界トップですが、もともとは米国6位の弱小タバコメーカーでした。
フィリップモリスで最高のリターンを得ることができた投資家は、ほんのわずかだったと思います。
シーゲル派から莫大な人気を誇り、アルトリア共々バフェット太郎10種にも選ばれている超優良企業ですが、今後高いリターンをもたらすかは分かりません。フィリップモリスの過去と現在を比較すると、次の通りです。
1957~2013年平均 | 2017/9/14現在 | |
PER | 13.13倍 | 24.07倍 |
配当利回り | 4.07% | 3.65% |
配当性向 | 約52% | 約88% |
米国シェア | 6位→1位 | 1位→?位 |
フィリップモリスが高いリターンをもたらした理由は、低い期待と高い成長です。現在は、業界1位であることもあってPERは24倍と高めに出ています。つまり、投資家から見放されているような銘柄ではないということです。
また、いくら電子タバコがあるからといって、しばらくは紙巻タバコが主流であることには変わりがないし、全体で見れば衰退企業であることは間違いありません。過去のような高いリターンを得ることは不可能ということです。
現在のEPS成長も、長期借入金による自社株買いによるもの部分が大きく、債務超過で続けていくのは大きなリスクになります。
もちろん、現在でも高収益で株主還元に積極的なので、シーゲル派の最低条件は満たしています。ただ、期待が低くはない以上、高いリターンをもたらすことは不可能です。せいぜいうまくいっても、市場平均を少し超えるくらいが関の山です。
この部分はバフェット太郎氏も理解した上でフリップモリスとアルトリアに投資をしています。
つまり、もし過去のリターンを期待してタバコセクターに投資しているなら、とっととぶん投げたほうがいいです。過去から学ぶことはできても、過去と同じことが起きることは2度とありません。
現在は株価変動が緩やかなディフェンシブ株として君臨していますが、もともとは株価変動も大きい株でした。今後の社会情勢によっては、ジェットコースターのように変動する可能性も十分高い銘柄です。
「株価が安定して高配当で、リターンも高い」なんて都合のいい銘柄は存在しませんから、保有者は油断せずに当金再投資を続けてください。
参考記事「IBM VS フィリップモリス」