低PER×高ROAという魔法の公式
つみたて次郎です。
株式を評価するための指標はたくさんありますが、特に有名ともいえるのが株価収益率(PER)です。
1株当たり利益に対し何倍の株価になっているかを図るための指標で、基本的には低いほど割安であるという判断がされます。
PERが低い銘柄は投資家からの期待が低く、高い銘柄は期待が高いということが推測できます。
過去長期においては、PERとリターンは逆相関するというデータがあり、バリュー株投資における基本中の基本ともいえる指標です。
参考記事「低PER戦略の有効性」
そして今回は、低PER戦略の応用ともいえる投資法について紹介していきます。
それは、グリーンブラット著「株デビューする前に知っておくべき魔法の公式」にのっている「魔法の公式」についてです。
本書は、一貫して定量的なスクリーニングによる銘柄選定を推奨しており、難しい知識なく市場平均をアウトパフォームするための手法と理屈について述べられています。
魔法の公式を一言で表すとこうです。
低PER×高ROA
この両条件を満たす銘柄こそが高リターンをもたらす魔法の公式であると説明されています。
ROAとは総資産利益率のことで、企業の総資産に対する純利益の割合を%で表したものです。
参考記事「総資産利益率(ROA)とは?」
ROAが高いほど、優良な事業を展開していると考えることができます。
つまり、低PERな割安銘柄×高ROAな優良企業という組み合わせを探して投資していくということになります。
具体的な投資法は次のようになっています。
①銘柄をPERの昇順で順位付けする
②銘柄をROAの降順で順位付けする
③それぞれの順位の数字を足して昇順で順位付けする
④③の上位から30銘柄を抽出し均等保有する
⑤これを毎年見直し銘柄を入れ替えしていく
文章にするとややこしいですが、ようするに低PERかつ高ROAな銘柄を選定し、毎年入れ替えをしていくだけです。
NYダウのうち配当利回りで順位付けして均等額保有するダウの犬と非常に似ていますね。
そしてこの方法で選定された魔法の公式銘柄は、とんでもないリターンを叩き出しています。
魔法の公式の業績(時価総額上位1,000社)
年度 | 魔法の公式(30銘柄) | S&P500 |
1988 | 29.4% | 16.6% |
1989 | 30.0% | 31.7% |
1990 | -6.0% | -3.1% |
1991 | 51.5% | 30.5% |
1992 | 16.4% | 7.6% |
1993 | 0.5% | 10.1% |
1994 | 15.3% | 1.3% |
1995 | 55.9% | 37.6% |
1996 | 37.4% | 23.0% |
1997 | 41.0% | 33.4% |
1998 | 32.6% | 28.6% |
1999 | 14.4% | 21.0% |
2000 | 12.8% | -9.1% |
2001 | 38.2% | -11.9% |
2002 | -25.3% | -22.1% |
2003 | 50.5% | 28.7% |
2004 | 27.6% | 10.9% |
平均 | 22.9% | 12.4% |
参考文献「株デビューする前に知っておくべき魔法の公式」
これは、1988~2004年の17年における、魔法の公式とS&P500のリターン比較です。
時価総額上位1,000社から選んだ場合の魔法の公式の成績は年率22.9%と、バフェット氏にすら迫るような驚異的なリターンです。
これは、米国市場の時価総額上位1,000銘柄をランキング付けして30銘柄を選ぶだけなので、誰でも簡単に実行することができる戦略でした。
なお、より範囲の広い時価総額上位3,500銘柄から30銘柄を選んだ場合は平均リターンが30.8%という化け物クラスのリターンになっていました。
もしこの傾向が続くのであれば、誰もが簡単に市場平均を超えるどころか、トッププロレベルの成績すら夢でないということになります。
しかし、1,000銘柄のうちたったの30銘柄を選ぶという手法なので、たまたま優良銘柄がその中に含まれていただけではないか?という疑問が付きまといます。
それに対する強烈なデータも本書には載っています。
魔法の公式グループ別収益率(1988~2004)
平均リターン | |
グループ1 | 17.9% |
グループ2 | 15.6% |
グループ3 | 14.8% |
グループ4 | 14.2% |
グループ5 | 14.1% |
グループ6 | 12.7% |
グループ7 | 11.3% |
グループ8 | 10.1% |
グループ9 | 5.2% |
グループ10 | 2.5% |
参考文献「株デビューする前に知っておくべき魔法の公式」
これは、時価総額上位3,500銘柄を魔法の公式でランク付けし、350銘柄ずつ10グループごとに分けた場合の年平均リターンです。
グループ1には、魔法の公式ランクが1~350位の銘柄が毎年入れ替えされ、グループ2にはランク351~700位が割り当てられる形です。
グループ10には、3151~3500位の魔法の公式ワースト350銘柄が割り当てられます。
グループごとのランキングとリターンは綺麗に比例しています。魔法の公式は、上位30銘柄にだけでなく、全銘柄のどの部分を取っても普遍的に機能していたということが証明されています。
低PER×高ROAという魔法の公式は、少なくとも1988~2004年においてはバリュー株スクリーニングとして優秀であったということになります。
つみたて次郎は、低PER・低PBR・高配当といった、機械的なスクリーニングで市場平均に勝つ戦略について考えるのが好きです。
そんなわけで、低PER×高ROAという組み合わせでスクリーニングを行う魔法の公式についても非常に興味を惹かれました。
しかし、いくつか気になった部分があります。
①ROAは単体で機能しない(多分)
ROAの親戚に、株主資本利益率(ROE)というものがあります。指標としてはこちらのほうがメジャーです。
ROAは総資産に対する純利益・ROEは株主資本に対する純利益を示すので若干違いますが、親戚ともいえる近い指標です。
それぞれ事業の稼ぐ力を評価する指標であり、ROEとROAは似たような動きをすることが多く、高ROEな銘柄は高ROAになりやすく、逆もしかりです。
そんなROEは、投資判断として重要視されますがリターンとの相関性がないというデータがあります。
参考記事「高ROEは高リターンにならない」
具体的な資料はありませんが、おそらくROAもリターンと相関しないと思われます。
つまり、ROA単体ではスクリーニングとして役に立たないということです。
その一方、PERは明確にリターンと逆相関するというデータがあるので、単体で役立つ指標です。
参考記事「低PER戦略の有効性」
魔法の公式を個人的に解釈すると、「低PER戦略にROAを足して改良した投資法」だと考えています。
PERが低い銘柄は、投資家からの期待が低い銘柄が多いです。そのため、収益率の低いボロ企業も当然含まれます。
そこでROAという指標を組み合わせることで、うまく割安かつ優良な銘柄を抽出することができた結果、素晴らしいリターンをもたらしたのだと推測できます。
これは理屈としては良く分かりますが、単体で役立たない指標を組み合わせると良い結果になるというのはちょっと違和感があります。
さらに踏み込んでみれば、魔法の公式戦略のライバルはS&P500等の市場平均ではなく低PER戦略であると考えることもできます。
個人的にはどちらも長期で市場平均に勝てると思いますが、どちらが勝つかについては個人的に懐疑的です。
また、仮にROAがリターンと相関する指標だったとしても懸念があります。
例えば、シーゲル教授は、ヘルスケアセクターや高配当株が高リターンになることをデータとして発表していますが、それを組み合わせたヘルスケア×高配当株が高リターンになるかどうかは別問題です。
低配当なヘルスケア株が高リターンだったかもしれないし、ヘルスケア以外の高配当株が高リターンだったかもしれません。
複数の指標を組み合わせるほど選定条件が複雑になり、思わぬ取りこぼしが発生してしまうかもしれません。
上記例ならば、ヘルスケアand高配当株ではなく、ヘルスケアor高配当株を選んでいくべきです。
このような理由で、個人的には魔法の公式よりもよりシンプルな低PER戦略のほうが好みです。
②中途半端なバックテスト期間
本書では、1988~2004年の17年間におけるデータをまとめているのがほとんどですが、正直17年間という期間は長期投資家にとっては短すぎます。せめて30年くらいは欲しいといったところです。
低PER戦略が超長期で有効だったことや、上記17年間では多くの年度で市場平均に勝っているところをみれば、この17年以外でもおそらく有効であったとは思いますが、やや説得力に欠けるという印象です。
始まりと終わりの区切りが悪い年号であるのも、なんらかの小細工がありそうでマイナスポイントです。
③銘柄入れ替えによるロスが大きい
これは魔法の公式に限りませんが、毎年少なくない銘柄入れ替えが発生するので、売買手数料やキャピタルゲイン税によるロスが発生します。(ダウの犬とかも同じです)
魔法の公式を模したETFなんかがあればよいのですが、現状なさそうですし、仮にあっても日本からは買えないでしょう(泣)
魔法の公式まとめ
本書「株デビューする前に知っておくべき魔法の公式」は、低PER×高ROAによるスクリーニングを始め、投資全般ついて分かりやすく解説されており、まさに株デビューする前に読みたい本の名に恥じない良書でした。
著者グリーン・ブラッド氏は、「優良企業を安く買え」という主張を一貫しています。
それを具体的に表現したのが低PER(割安)×高ROA(優良)というスクリーニングであり、高リターンの条件から探し方まで親切丁寧に説明されています。
株式投資に関する基礎知識から具体的な投資法までこれほどスムーズに頭に入る本もなかなかなく、つみたて次郎の小さな脳ミソでもサクサク読むことができました(笑)
本書はバリュー株投資本ですが、市場平均に勝つことは困難であるという前提のもと書かれているので、インデックス投資家でも違和感なく読めるはずです。
魔法の公式をそのまま実行する日は来ないと思いますが、考え方としては大変勉強になる1冊でした。
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