自社株買いは時価総額加重インデックス指数を歪める?
つみたて次郎です。
先日自社株買いに関する面白いニュースを見つけましたので紹介します。
外部リンク…コラム:自社株買いを擁護できない理由
自社株買いについての問題点を指摘しています。
配当と自社株買い
まずは前提知識から説明していきます。
株主還元には大きく分けて配当金・自社株買いの2通りの手段があります。
配当…株主に対して現金(キャッシュ)を支払う
自社株買い…市場から自社株を買い戻す
前者は直接的な株主還元、後者は間接的な株主還元といえます。
また、どちらの場合も企業のキャッシュ(株主に帰属)を消費することになるため、税金等を除けば理論上トータルリターンに中立です。
時価総額100億円の企業が総額5億円の配当支払いを行えば時価総額は95億円まで下がります(理論上は)
自社株買いの場合も、取得した自社株を消却することで似たようなことが起こります。
自社株を買う→自社株を消却という流れだけを見れば、企業からキャッシュが減って時価総額が減る代わりに、発行株式数も減るので1株当たりの株価に対しては中立なはずです(ちょっと自信ない)
配当支払いも自社株消却も、時価総額減少を引き起こす原因となります。
自社株買いの歴史は浅い
配当金の歴史はほぼ株式市場の歴史につながります。
その一方、米国で自社株買いの規制が緩められたのは1982年と、株式市場の歴史から考えるとごく最近の話です。
この時を境に、株主還元のルールは大きく変化したといえます。
配当金は事前に広く周知されるのに対し、自社株買いはいったいいくらで自社株を買ったのか、何株買ったのかが事前に分からないため、不公平であるという指摘もあります。
また、配当金は受け取る都度課税されるのが一般的ですが、自社株買いに対しては課税されないため税制上有利です。
理論上は株価に中立でも実際は株価上昇につながることが多いため、ストックオプションを持つ経営陣や従業員にとっても好都合です。
そのため米国では自社株買いがごく普通の株主還元として定着していますし、日本にもその流れは来ているように感じます。
米国ではむしろ配当より自社株買いを優先して株主還元する企業も多く、つみ次郎の感覚だと金融セクター、情報技術セクターに多いイメージです(TRV、Vなど)
自社株買いと時価総額と指数
ここでタイトル回収ですが、配当金も自社株買いも時価総額に大きな影響を与えるため、時価総額加重平均インデックス指数の構成比率にもかかわってきます。
配当金の場合、発行株式数は変わらず株価にのみ影響を与えるため、時価総額を把握するのは比較的容易です。
しかし自社株買いの場合、①何株買って何株消却したのか②いくらで買い戻したのかがハッキリ分かるとは限らず、正確な時価総額を把握するのが困難になる場合があります。
元記事より引用します。
また比較的新しく、あまり知られていないことだが、自社株買いには指数連動型投資を歪曲するという問題もある。非公開の自社株買いで発行済み株式数が減ると当該企業の正確な時価総額が把握できない。
引用「REUTERS」
恥ずかしながらこの理屈は今まで考えたことがなかったので勉強になりました。
1株当たりの株価は市場で取引されている限りすぐ把握できますが、発行株式数の変化はリアルタイムに把握できないということですね。
自社株買いが活発になるほど、インデックス指数を歪めてしまいかねないということになります。
その一方、配当金のせいで「配当込み指数」というややこしい概念が誕生しているところもあるので、パッシブ運用泣かせという意味ではどっちもどっちかもしれません。
自社株買いも配当もない、企業の新規上場も上場廃止も存在しない世界がパッシブ運用にとっては好都合ですね(笑)
自社株買いは不確実なリターン
元々「税制上有利な自社株買い」「目に見える確実な配当金」というイメージでしたが、今回のニュースを聞いてよりそう感じました。
シーゲル教授著「株式投資の未来」でも、自社株買いの問題点についてはたびたび触れられています。
自社株買い戻しは、配当再投資とおなじくらい効果が目覚しく、しかもキャピタルゲイン税繰り延べというおまけまでつく。だが、そうはならない場合も多い。過去のケースをみるかぎり、経営陣が約束を守るかどうかの点で、自社株買いは配当支払いほどあてにならないことが多い。配当の場合、いったん金額を決めれば、経営陣はこれを引き下げまいとする。減配は会社の発する赤信号と受け止められ、発表と同時に、株価が急落するのがふつうだからだ。対照的に、自社株戻しは、経営陣の意向しだいで実施される面が強い。
出典「株式投資の未来」
もちろん配当・自社株買いが確実に実行され続けたとしても、投資家にリターンをもたらすとは限りません。
参考記事…連続増配は株主利益を損ねる
ですが株主還元意欲の強い企業の投資が報われると考えるのであれば、自社株買いを優先する企業より配当を優先する企業のほうが動向を読みやすいのではないかと思います。
なのでつみ次郎も、自社株買いに積極的な企業よりも配当に積極的な企業のほうが好みです。
配当金はブレ幅が少ないため、スクリーニング基準としても優れていると考えています。
参考記事…高総還元性向ETFが発売されたら高配当ETFは用済み?
自社株買いルール厳格化は賛成
元記事の結論としては、自社株買いに対して厳格な会計基準は配当と同等の税制を設け、即時の情報開示を義務付けるということを提案しています。
流石に自社株買い自体を廃止することは難しいですし、企業戦略にも大きな影響が出てしまいますので厳格化で調整するというのは良い案だと思います。
自社株買い自体は株主の方向を向いた行為ですし、情報の開示が徹底されれば指数への影響も軽微で済みます。
自社株買い、配当、または企業内再投資と経営陣がとれる選択肢は様々ですが、いずれにせよ株主がすぐにその状況を把握できる環境が整うといいですね。
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