現金(キャッシュ)はインフレに弱いというのは本当か?
- つみたて次郎です。
無リスク資産である現金(キャッシュ)はポートフォリオの守りの要であり、流動性も非常に高い基本的な資産クラスです。
リスク資産の中身をどうするかよりも、無リスク資産をどの程度持っているかが重要といっても過言ではないでしょう。
なお本記事においてキャッシュとはタンス預金のような現ナマではなく、利息がつく銀行預金等と定義します。
また、銀行預金以外でもデフォルトリスクや価格変動リスクがなく、流動性が高く、拘束期間が短いあるいは変動金利になっている資産は同じような性質を持っています。
具体的には短期定期預金・個人向け国債・財形貯蓄などですね。
これらのキャッシュ等は名目リターンで必ずプラスになる、極めて安全性の高い資産となっています。
その性質からデフレに非常に強いです。デフレでは大抵の金融資産が下落するので、相対的にキャッシュの魅力が高まります。
また、どんなにデフレが続いても預金金利がマイナスになることはないので、物価下落&金利ゲットという二重のリターンを得ることができます。
逆にインフレが進む場合、物価上昇に対応できないため一般的にキャッシュはインフレに弱いといわれています。
ハイパーインフレが起きれば真っ先に無価値になるのがキャッシュですので、この説明は一定の説得力を持っています。
その一方、キャッシュは定期的に利息を受け取ることができるので、平常時のインフレであればキャッシュでも十分対応できるという反論もあります。
定期預金でもインフレに対抗できる
「実はキャッシュでもインフレに負けない」というのはつみ次郎もなんとなく耳にしていましたが、具体的なデータで確認したことはこれまでありませんでした。
ちょうど先日つみ次郎が読んだ投資賢者の心理学にて分かりやすいグラフが載っていたので引用します。
出典「投資賢者の心理学」
これは1951年末に銀行定期預金(1年)に100円預けた場合の資産価値と、同時期の消費者物価指数の変化についてまとめられたグラフです。
戦後~バブル期の比較的インフレ率の高かった時代でも、銀行預金の金利を再投資すれば購買力を維持することが可能でした。
少なくとも1951年~2011年においては、短期の定期預金はインフレに弱い資産ではなかったということになります。
金利変動による影響が大きい長期定期預金や、無リスク資産ではありませんが長期国債等であれば(どちらに転ぶか分かりませんが)違った結果になりそうです。
ただし上記のグラフにおいては、税金と取引手数料について考慮されていないことには注意が必要です。
特に現在は金利の20%が税金で引かれるので、その影響は非常に大きいです。
ちなみに上記グラフを60年間の複利リターンと考えた場合、それぞれの年平均リターンは次のようになります。
定期預金(1年)…4.09%
消費者物価指数…3.26%
定期預金の数値に現在の税率20%を引いたら3.27%なので、ほぼ同じくらいになりました。
ガバガバ計算ですが、税金を全く考慮しないよりは実態に近いのではないかと思います。
長期で見ればキャッシュはダメダメなんて言われたりしますが、税金を考慮してもインフレで大きく減価したという事実はなさそうです。
シーゲルグラフの誤解
米国株クラスタのみならず、広く認知されている以下のグラフがあります。
出典「株式投資の未来」
シーゲル教授著「株式投資の未来」に掲載されているグラフです。
長期投資における株式の優位性を示すのに使われる一方、キャッシュ(ドル)がインフレにより大きく毀損されていることについて触れられることも多いです。
米ドルの話ではありますが、1801年時点の1ドルは2001年時点でわずか0.07ドルの購買力しかもっていないというのは衝撃的です。
逆算すると1801~2001年の200年間で物価は約14倍になったということですね(1÷0.07)
これはハイパーインフレ等なく比較的安定して経済成長していた米国での話ですので、他国通貨ではもっと悲惨なことになりそうです。
日本ではハイパーインフレが起きているので、円の価値は途中で大暴落しています。
これらの考えをまとめると「キャッシュは長期で大きく下落する」という結論に結びつきますが、1つ忘れていることがあります。
上記グラフのドルというのは、利息が一切ついてません。
イメージとしては1ドル紙幣をタイムカプセルに埋めて、200年後に掘り出したような状態です。要するにタンス預金ですね。
ですが今回のように資産運用について考えるときに、タンス預金という選択肢はあまり一般的ではなく、ほとんどの人は銀行に預けているはずです。
銀行預金であれば一定の金利をもらい続けることができるので、再投資し続ければ少なくとも上記グラフほど悲惨な結果はならないはずです。
もしかしたら1801年の銀行に1ドル預け入れて200年後の2001年に引き出したら、実質リターンでプラスになっていた可能性もないとは言い切れません。
なので上記グラフから読み取れるのは「長期間ドルをタンス預金すると損する可能性が高い」ということになります。
ドルではなく円だとしても「長期間タンス預金するのはインフレで減価するから危険」というのは多くの人が納得できる理屈だと思います。
逆に言えば銀行預金等の利息が付くキャッシュについては、上記グラフの「ドル」の推移をそのまま参考にしてはならないということになります。
ドル預金のリターンを考えるなら、むしろ「短期国債」のほうに注目したほうが近いのではないでしょうか。
今回の場合短期国債とは「米国短期国債」であり、残存期間が1年未満の米国債のことを指します。
短期国債は200年間で約300倍になっており、購買力の維持どころか十分すぎるほどのリターンを叩き出しています。
同時期におけるドル預金のリターンは少なくともグラフ上のドルと短期国債の間(0.07~301ドル)の間にあることになります。
かなり数値の差があるので予想に過ぎませんが、少なくとも銀行に預けていればキャッシュで保有してもそれなりの結果になったのではないかと思います。
キャッシュの優位性と懸念
これらのデータをまとめると、長期投資でもキャッシュ(タンス預金はNG)というのは名目リターンで必ずプラスになり、多少のインフレがあったとしても実質リターンも悪くないという優秀な資産クラスであると考えることができます。
つみ次郎もおおむね正しい理論だと思いますが、懸念材料がないわけではありません。
高インフレ時はどうなる?
あくまでキャッシュがインフレに勝てるのは、平常時のインフレの場合です。
当然ですが万が一ハイパーインフレにでもなればとても金利が物価上昇に追い付けるとは思えません。
今の日本がハイパーインフレになるとは考えにくいですが、インフレ率と金利が釣り合わない状況になることは十分ありあり得そうです。
そうなった時にどのように資産保全をするかということは事前に考えておいたほうがいいかもしれません。
みんなが慌てる頃になってから考え始めても遅いですからね。
各個人の生活スタイルは違う
投資リターンを考えるときはインフレ率を考慮した実質リターンを考慮する必要がありますが、インフレ率というのは全体の平均に過ぎず、各個人の生活費と連動するとは限りません。
例えば東京の地価が急騰すれば全国平均の生活費は増加しますが、地方に住んでいる人の生活費が増えるわけではありません。
頻繁に海外旅行に行く人であれば、国内のインフレ率よりも為替変動のほうが出費に影響を与えそうです。
各個人の出費の内容や金額が違う以上、インフレが与える影響も人それぞれであり、真の意味で実質リターンを計算するというのはとても難しいことなのかもしれません。
ようするに実質リターンでほぼ±ゼロだとしても、購買力を100%維持できるかどうかはまた別問題だということです。
これはキャッシュに限らず投資全体に言えることですが、実質リターンというのは基準となるインフレ率によって多少前後するものですので、ある程度のブレを考慮する必要があります。
キャッシュとインフレまとめ
キャッシュというのは意外とインフレに負けないというのは事実ですが、キャッシュそのものの価値は国家の信用に裏付けされている以上、過信はできないとつみ次郎は考えています。
やはりインフレ対策として株式・REIT・不動産・コモディティ等の、実物資産及びそれに準ずる性質を持つ資産によるリスクヘッジもあったほうが安心ではないかと思います。
過去のデータを見れば確かにキャッシュでもインフレ対策はできていますが、超長期で見れば戦後のハイパーインフレで円の価値は暴落していますし、今後も過去の傾向が続くと仮定するなら株式や債券のほうがより長い実績があり、結果として購買力を維持できる可能性は高いです。
各自のリスク許容度を考慮する必要があるのは言うまでもありませんが、やはりキャッシュというのはリターンを生み出す資産クラスではなく、資産保全という面でも万能ではない以上、リスク資産への分散投資や、有事の際の立ち回りについてはしっかり考えておく必要がありますね。
いざという時には様々な資産にすぐ変身できる、流動性の高さがキャッシュの大きな武器ですからね。
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キャッシュ次郎