資本を食う豚
シーゲル二郎です。
タイトルの物騒な言葉は、ジェレミー・シーゲル氏の著書「株式投資の未来」で語られた名言です。
ここでいう資本とは、会社が持っている株主資本のことを指します。
豚とは、この株主資本を無駄にする企業戦略のことです。
株主資本を損ねる経営戦略を比喩しています。
企業が活動するうえでは、必ず人件費などの費用がかかります。その中でも重要なのが、「設備投資」です。製造業なら、工場を増やしてたくさんモノを作れるようにしたり、石油企業なら発掘作業を強化して石油を掘り当てやすくしたりなどです。
設備投資は、企業が成長するうえでは非常に重要です。しかし、株主にとっては、リターンを下げる要因にもなりかねないのです。
シーゲル氏の調査で、米国株を設備投資の大小ごとに5グループに分けました。そのうち、設備投資が最も多いグループと、最も少ないグループをS&P500と比べてみました。
1957~2003年 米国市場における設備投資とリターンの関係
リターン | |
設備投資が最も多いグループ | 9.55% |
S&P500(市場平均) | 11.18% |
設備投資が最も少ないグループ | 14.78% |
参考文献「株式投資の未来」
設備投資が最も少ないグループが高いリターンをもたらしています。著書では5グループすべてのリターンは載っていないので、設備投資とリターンがきれいに反比例するかはわかりませんが、おおよそ設備投資が少ないほど高リターンといえます。
設備投資は、企業が成長するために大切ですが、多くの場合、株主の利益にならず無駄になってしまうともいえます。このことから、必要以上の設備投資は「資本を食う豚」とシーゲル氏は比喩しているのです。
シーゲル派の多くは、儲けた利益をそのまま株主に還元する企業を高く評価しています。身もふたもない言い方をすると、
「設備投資は無駄だから直接よこせ」
という要求を経営陣に突きつけたいのです。非常に強欲な投資戦略だといえますね(笑)
参考記事「シーゲル派投資家は恥ずかしい」
設備投資は、一社が行うと他社も負けじと対抗するので結果競争が始まり、業界全体が消耗することが多いです。シーゲル派やバフェット派は、競争に巻き込まれる企業を嫌いますので、必然と設備投資が少ない企業に投資することになります。
フィリップモリス・インターナショナル(PM)を筆頭とするタバコ企業では特に顕著ですね。各社設備投資は少なくていいので、大きな利益を残し株主に渡すことができています。
設備投資に関する企業戦略は、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」に関係しています。
同業種の会社Aと会社Bがあったとします。2社はライバルで、相手を出し抜こうと設備投資をしますが、お互い費用がかさんで思うように利益が出ません。ですが、設備投資をやめてしまうと、相手がいい商品を開発してしまうのでやめるわけにはいきません。
本当は赤い部分の「お互い設備投資しない」のが平和でいいのですが、これを約束するとカルテルになり法律違反です。
企業は利益を得ることが目的であり、相手より少しでも有利な立場になりたいと思うのは自然なことです。そのため、例え無駄が多いとわかっていても設備投資をやめるわけにはいかないのです。そのため、大抵は青い部分の結末を迎えます。
囚人で考えれば、お互い自白してしまうようなものです。競争が激しくなれば価格は安くなり品質は良くなるので、消費者にとってはうれしいです。
参考記事「囚人のジレンマ」
米国株の長期セクター別リターンでは、電気通信セクターと公共セクターが市場平均を下回ってきたデータがあります。これら2つは、イメージ通り莫大な設備投資が必要だったので、最終的に株主利益が減ってしまったと考えてられます。
特に電気通信セクターでは、インターネット回線に使用する光ファイバーケーブルを必要以上に敷設したことで、大きな無駄遣いをしています。まさに資本を食う豚ですね。
「資本」と名前がついているので、資本財セクターを思い浮かべる人もいますが、直接は関係ありません。ですが、資本財セクターは昔ながらの製造業や鉄道関連が多いので、豚が多く潜んでいる事実は否定できません。
経営のプロであっても、適切にお金を使うことは難しいということですね。設備投資をして会社を成長させたときに、大きな恩恵を受けるのは企業でも株主でもなく「消費者」であることが多かったのです。
業界を代表するような大物が、とある合会でこう言ったそうです。
「頼むから発明を止めてくれ!」