【書評】勝てるROE投資術を読んだ感想
つみたて次郎です。
広木隆氏著「勝てるROE投資術」を読んだので感想文です。
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タイトル通り、ROE(自己資本利益率)について深く考察された投資本です。
投資に関する指標としては、PBRやPERが非常に有名ですが、最近ではROEについて語られることも多いような気がします。
特に外国人投資家が重視する指標として、国内でも注目を集めていますね。
そんなROEについて、その意味や過去の傾向、具体的な銘柄のスクリーニングなど幅広く触れられています。
その中で、つみ次郎が気になった部分について考察していきたいと思います。
日本株のROEの低さ
本書では、全体を通じて日本株式市場におけるROEの低さについて考察されているページが多いです。
結論としては、日本株のROEが低いのは利益率が低いからという結論にまとめられています。
出典「勝てるROE投資術」
東証1部(=TOPIX)とS&P500の比較データです。
利益率とROEがきれいに比例していることがよく分かります。
個人的には日本のほうがレバレッジ比率が高いというのが意外でした。米国企業のほうがレバレッジを積極的にかけているイメージがあったので。
もちろん業種の違い等も関係していると思われますけどね。
ただし、本書は2014年11月に出版されているため、少し古いデータである点には注意が必要です。
ROEについては日本企業も改善に向かいつつあり、日米の差は縮まりつつあります。
いずれにせよ、利益率の高い事業に資金をぶち込めばROEも改善するというシンプルな法則があるということですね。
ROEとリターンの相関性
第2章のタイトルは「高ROE銘柄を、買ってはいけない」となっており、高ROEを追い求めるだけでは高いリターンを得られないことについて解説されています。
ROE別に調査した結果、ROEとトータルリターンは反比例するという結果になっていました。
出典「勝てるROE投資術」
これは、東証一部銘柄をROE基準で5グループに分けた場合の結果です。
検証期間は明記されていませんでしたが、前後の文章から推測すると1999年~2014年におけるシミュレーションかと思われます。
ROEが高いほど見事に低リターンになっており、これは一般的な通説に反するデータといえそうです。
特に実績ROEがマイナス(=赤字企業や債務超過企業)になっている第5分位でもしっかり高リターンになっているのは驚きですね。
また、ROEの変化率で検証しても、低ROE→高ROEになった企業は低リターン、逆に高ROE→低ROEになった企業は高リターンという法則が成り立つようです。
すなわちROEが高い銘柄や、ROEがだんだん伸びていく銘柄をうまく見つけられても爆益銘柄につながりにくいということを意味しています。
高ROEのリターンがダメな理由
上記のように高ROE銘柄のリターンが優れない理由として、本書では以下3つの理由を挙げています。
①高ROEが織り込み済み
②ROEの平均回帰性
③ROEとPBRの関係
①高ROEが織り込み済みについてはもはや説明不要ですね。
高ROE銘柄は稼ぐ力が高いと評価され、他の投資家も殺到して株価が吊り上がってしまう→思った通りのリターンが得られないという理屈です。成長の罠と似たような考え方ですね。
②ROEの平均回帰性については、とても分かりやすい仮説があったので引用します。
その他に考えられる要因としては、ROEが高い企業が利益を内部留保すると自己資本が増加し、その後のROE低下を招くということが挙げられるだろう。これはまさに「ROEという指標が抱える自己矛盾」にほかならない。なぜなら、利益を出すがゆえに利益余剰金が増えて自己資本が増えるものであり、翌期は増加した自己資本を抱えてさらに利益を稼がなければならない。すなわちハードルがどんどん上がっていくようなものだからである。
出典「勝てるROE投資術」
つまり高ROE企業は、そのROEを維持することがだんだん難しくなっていくということですね。
ROEの変動については、配当や自社株買いなども深くかかわっており、本書ではその影響についても詳しく解説されています。
③ROEとPBRの関係については、まずそれぞれの計算式を見ればすぐに分かります。
PBR = PER × ROE
つまりPER(株価収益率)が一定という前提ならば、PBRとROEは反比例します。
つまり高ROE銘柄は高PBR銘柄になりやすいということです。
ROEとは、自己資本(≒純資産)に対する利益の割合ですから、純資産を減らすほど数字は向上しますからね。
しかし、日本含めた世界の株式市場では、高PBR銘柄は低リターンになりやすいという傾向がみられています。
したがって高ROE→高PBR→低リターンという法則が成り立ってしまうということになります。
出典「勝てるROE投資術」
PBR×ROEの組み合わせで見ても、やはりROEの高低はあまりリターンに関係なく、PBRの高低が重要であるという結果になっています。
特に低PBR×低PBRのリターンが突出していることがよく分かります。
その一方、低PBR×高ROEがそこそこ良い結果になっている点についても本書で触れられており、著者はこの銘柄選定の効果は「そこそこ」効くという評価をしています。
ちなみに低PBR×高ROEというコンセプトは、グリーン・ブラット氏が提唱した魔法の公式に近い考え方だと思います。
参考記事…低PER×高ROAという魔法の公式
読書感想文まとめ
「勝てる投資術」というタイトルとは対極的に、淡々とROEに関するデータや考察がまとめられており、よい意味で裏切られました。
特に高ROE=高リターンという勘違いはよく見られますので、それ含めROEについて色々知りたい方には良い本ではないかと思います。
つみ次郎はシンプルなバックテストを基準にその理由を考えていく投資本が好みですので、その意味でも楽しく読み進めることができました。
また、本書ではなくROEという指標に対するつみ次郎の見解をまとめていくと、やはりROEという指標を使いこなすのは難しいという印象でした。
ROEという指標そのものが様々な要因でねじ曲がりかねないことや、単純に高ROEまたは低ROEでスクリーニングするだけでは有効でない点があまり好みではありません。
元々ROEに対しては良いイメージがありませんでしたが、その認識が覆ることはありませんでした。
もちろんこれはつみ次郎個人の見解ですので、ROEを使ってうまくリターンを出せる人はいるでしょうし、本書がROEの教科書として優れていることには変わりありません。
ROEについて理解を深めたいときに、手に取っていただきたい一冊です。
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