【ハイテク】無議決権株に対する不信感【優先株】
つみたて次郎です。
株式に投資するということは、その企業の所有権の一部を手に入れるということです。
文字通り「企業のオーナー」になることが可能で、株式会社が資本主義の原動力である限り有力な投資先であることが期待できます。
企業の所有権を簡単に分解してみると、次の3要素に分けることができます。
株主資本の所有者
企業が保有している設備やキャッシュ、ブランド等の資産は全て株主の物です。また、借入金等の負債も間接的に帰属することになります。ただし有限責任なため、出資額以上の返済義務を株主が負うことはありません。
企業利益の所有者
企業が稼ぎ出した純利益も全て株主の物です。稼いだ利益は企業内再投資・内部留保・配当金支払い・自社株買い等に活用し、株主利益の最大化を図ります。
経営権の所有者
企業の最重要事項を決める株主総会では、株式の保有数に応じて議決権が与えられています。極端な話、株式の半分以上を買い占めてしまえばその企業を支配することが可能です。
さらに3分の2以上を保有していれば、特別決議事項ですら単独で可決可能です。
普段あまり意識することはありませんが、株式に投資をするということはこれらの権利を得ることになります。
株主資本と企業利益については、PERやPBRなどの指標でも評価されますのでよく話題になりますが、3つ目の経営権について考えることはあまりないと思います。
機関投資家でもない限り、議決権を行使できるほどの株式を個人が買い集めることはほぼ不可能です。世界規模の多国籍企業ならなおさらです。
参考に、コカ・コーラ(KO)の株価は1株当たり43.46ドル(≒約4,780円)で発行株式数は4,255,262,604株です。
KOの株を1つ5千円くらいで買うと、コカ・コーラ社の4,255,262,604分の1の所有権を主張できるということになります(笑)
気の遠くなるような話ですね。
このように考えていけば、個人投資家レベルで議決権を保有している意味はほとんどありません。株主総会に出席しても、まともに意見を通すことは不可能です。
原則株式には議決権が付随していますが、議決権がそもそも付与されていない株式も存在します。
大きく分けると2種類あります。
優先株式
議決権がない代わりに、優先的に配当金を受け取れたり、企業解散時に通常の株式よりも優先的に補填される特典がついている株式です。金融セクター企業がよく発行しています。
議決権がある普通の株式と一長一短な関係にあり、その性質から債券的な動きをすることが多いです。
無議決権株式
こちらも議決権がない株式ですが、上記の優先株式と違いその対価が一切ありません。普通株からただ議決権をなくしただけで、その分株価は議決権ありの株式よりも割安になる傾向があります。
米国のハイテク企業でよく発行されており、創業者らが発言力を維持しつつ増資するために利用されています。
これらの株式に対し、つみたて次郎はあまりいい印象を持っていません。
つみたて次郎は、資本主義において最重要組織ともいえる株式会社のオーナーになることで、健全な資産形成ができると考えています。
バフェット氏の言葉である「株券ではなく事業を買う」という言葉にも深い感銘を受けていますし、企業の経営権はまさにその中核でもある存在です。
その経営権が最初から放棄されている株式は、果たして事業を買っていることになるのか?という疑問があります。
議決権を主張できないのであれば、それは企業のオーナーではなく企業の利害関係者程度の関係性になってしまいます。
つみたて次郎が債券にあまり良い印象を持っていない理由と似ており、企業との距離感がある点がどうもモヤモヤします。
資本主義の中枢は株式会社であり、その株式会社と最も近い立場で出資できるのが普通株(議決権あり)であると考えています。
無議決権株について考察していくと、フェイスブック(FB)やアルファベット(GOOG)あたりがよい具体例です。
アルファベット(グーグルの親会社)は、3種類の株式を発行していて、その中に無議決権株が含まれています。
ティッカー | 議決権の割り当て | |
クラスA | GOOGL | 1倍 |
クラスB | 未上場 | 10倍 |
クラスC | GOOG | なし |
株式市場では、議決権ありのクラスAと議決権なしのクラスCが売買されています。
議決権以外は同一条件であるため、値動きもほぼ一緒です。
ここで不思議なのは、議決権ありのクラスAが議決権なしのCよりもリターンが悪くなっている点です。本来であれば、議決権の価値相当分だけクラスAが上方乖離するはずですが、実際はその逆になっています。
また、未上場のクラスBという株式もあり、これは議決権がクラスAの10倍もある特別な株式です。ほとんどはラリー・ペイジーCEOら創業者が保有しており、これにより議決権の大半を握っていることになります。
つまりクラスAの議決権はほとんどお飾りに過ぎず、市場参加者もほとんど重要視していないという推測を立てることができます。
とはいえ、議決権がマイナスに働くことはないので、AとCの逆転現象は摩訶不思議です。どなたか詳しい方がいればコメントください。
また、最近話題になったのは、フェイスブックの他議決権発行に関するニュースです。
外部リンク「米フェイスブック、外部投資家の大半が多議決権株式に反対」
フェイスブックCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏も、同様の方法で議決権の過半数を持っています。こちらはたった一人で議決権の過半数を握っているため、より強固なシステムを構築しているといえます。
世界的な大企業がたった一人の方針で動いてしまうことを想像するのは少し怖いですね。
そんなフェイスブックに対する外部投資家の不満は高まっているようで、CEO保有の他議決権株の廃止を求める声が上がっているようです。
無議決権株式や他議決権株式を発行することのメリットは、創業者たちの議決権を安定させつつ増資することが可能になり、スピーディーな企業戦略を実行することが可能になることです。
デメリットはその裏返しで、創業者たちの暴走を止めることができないということです。
極端な話、明らかに株主利益につながらないような経営方針であっても、数人あるいはたった1人が同意すれば通ってしまうという危険性があります。
結局のところ、経営陣らの手腕に任せるような投資になります。
巨大IT企業をここまで成長させた彼らの実力は間違いありませんが、常にエージェンシー問題(代理人問題)が付きまというという点には注意が必要です。
今までは、彼らがやりたいこと=株主利益につながることになっていたので、株主もずっと報われ続けてきましたが、今後もそれが続くかはわかりません。
後は個人的な意見ですが、もしつみたて次郎がラリー・ペイジー氏やマーク・ザッカーバーグ氏くらいのお金持ちになっていたら、株価の上昇なんかよりも自分のやりたいことや名声とかを重視すると思います。
だからこそ多議決権の株を用いて議決権を死守しているわけですし、大多数を占める利益だけ欲しい投資家とのすれ違いは避けられません。
議決権の保有者と利益の享受者にギャップがあるというのは、これまでの株式の歴史ではあまりなかったことであり、大きなリスクの1つであると考えています。
これらを踏まえれば、フェイスブックやアルファベットへの投資は企業のオーナーになるという意味では不完全であり、個人的には大きな懸念であると思っています。
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議決権欲しい
>とはいえ、議決権がマイナスに働くことはないので、AとCの逆転現象は摩訶不思議です。どなたか詳しい方がいればコメントください。
くわしくないのですが、
配当と同じように議決権が発行されるたびに権利落ちが発生することが
原因と想像します。
毎総会ごと議決権の価値分だけ(相対的に)下方するのではないでしょうか。
わずかない議決権に大した価値がないような気もするのですが、
(私の良く知る国内株では)権利落ちで配当以上に下がるような気がしています。
別の個所で、よろしければ一つ質問させてください。
バフェットの言葉に感銘を受けるくだりがありますが。
バークシャーも特殊な株を発行していますよね。
これは次郎さんがネガティブに考える種類のものではないのでしょうか?
それとも、バフェット(≒バークシャー)の行動は称賛しないが言葉は素晴らしいと
考えているのでしょうか?
少し違和感を感じたので質問させていただきましたが、
いずれにしましても大した意図はないです。
ちょっと気になりました。
コメントありがとうございます。
議決権の権利落ちが関係している可能性が高そうですね。参考になりました。
バークシャーについては、ご指摘の通り議決権はA株とB株で重みが違うので、似たようなケースですね。
ただ、バークシャーの場合は、むしろバフェット氏含む経営陣らが議決権を握っていたほうが投資家も安心できそうで、特殊な状況だと考えています。
いずれにせよ、経営陣の手腕に大きく左右される投資になるので、個人的にはBRK.Bはあまり投資したいと思いません。
バフェット氏の投資哲学には共感するが、バークシャーに対してはあまり興味がないというスタンスですかね。
バークシャーの議決権については面白い議題なので、今度記事にしてみようと思います。
さっそくの回答ありがとうございます。
記事楽しみにしています♪
もし議決権がないことが(相対的)高リターンの原因ならば、
それでも(大した意味のない)議決権をとるのか、
言葉に受けた感銘を忘れてリターンをとるのか、
興味深いところです。
突然コメント失礼します。数年前まで証券アナリストをしていました。現在はまったく別の業界の仕事につき離れていますので不確かな点もあります。ご了承の上、長いですがコメントさせてください。
まず、種類株式も一般的に株価の形成には、議決権の差異があっても、売買高、流動性がどの程度か、指数採用銘柄であるかなど複雑な要因が重なっているとされています。
そのひとつの要因に、「エンプティボーティング」という概念があります。
経済学者は「エクイティ・スワップ、貸株取引などを用いて経済的持分と議決権持分を切り離し、経済的持分を保有せずに議決権持分を持つ状態を意図的に作り出す手法」と説明する方もいます。(証券レビュー第57巻第4号)
また、法律家は「共益権である議決権と自益権である経済的所有権とを分離し、議決権に見合う経済的所有権を保有することなく議決権を行使する事態をいう。株式会社法制が株主に議決権を付与している前提を揺るがす懸念がある」と説明する方もいます。(証券アナリストジャーナル2014年11月号)
金融商品取引法の制定以前にも議論になっていまして、この「エンプティボーティング」という概念だけでは価格形成を説明できませんが、興味深い分野であることを申し添えます。
>>匿名希望様
コメントありがとうございます。大変参考になりました。
理解するのは難しそうですが、元資料もちょっと調べてみようと思います。