為替リスクと円建て・ドル建ての関係性
つみたて次郎です。
今回は、誤解されやすい為替リスクに関する内容をまとめていきます。
円建てとドル建て
株式・投資信託・ETFなどの金融商品は、原則として1つの通貨を基準に価格が決められています。
日本株や投資信託、国内ETFは、日本の通貨である「円」で表示されています。そのため「円建て資産」となります。
例…7203(トヨタ自動車)、楽天VT(全世界株投信)、1557(S&P500国内ETF)
米国株や米国籍ETFは、アメリカの通貨である「米ドル」で表示されています。そのため「ドル建て資産」となります。(以下、ドル=米ドルとして記載します)
国内で購入可能な海外ETFのほとんどは米国籍ETFなので、海外ETF=ほぼドル建てと考えてよいかもしれません。(バンガード、iシェアーズ、スパイダー等)
米国市場に上場している米国外株(ADR)も原則はドル建てで取引されています。
例…AMZN(アマゾン)、VT(米国籍ETF)、TM(トヨタ自動車ADR)
日米以外の金融資産であれば、その他にも「ユーロ建て」「ポンド建て」などがありますが、日本国内から日米外の金融資産に投資する場合、個別株ならADRを用いたり、分散するなら投資信託やETFを用いるケースが多いです。
そのため多くの投資家にとっては、円建て資産・ドル建て資産という2つを意識するだけで十分ではないかと思います。
日本株や投資信託を中心に保有している人は円建て資産、外国株や海外ETFを中心に保有している人はドル建て資産が多いことになります。
実質的な為替リスクに注目する
為替ヘッジをつけない場合、円建て資産=為替リスクがない、ドル建て資産=ドルに対する為替リスクがあると思われがちですが、これは間違った考え方です。
どの通貨建てであるかは、為替リスクと直接関係ありません。
為替リスクを考えるうえで最も注目するのは、「その金融商品が実質的に何を保有するか」という点です。
分かりやすい例として、バンガード・トータル・ストック・マーケット(VTI)と楽天・全米株式インデックス・ファンド(楽天VTI)で考えてみます。
本家VTIは、米国株式市場を幅広くカバーするインデックス型の海外ETFで、米国市場に上場しているためドルで取引されているドル建て資産となります。
楽天VTIは、円建で取引されている国内の投資信託です。ファンド内で集められた資金でVTIだけを買うことで、間接的に米国株式市場に投資することができます。
どちらも為替ヘッジはついていません。
つまり海外ETF・投資信託という形式の違いを除けば、この2つは実質的に「米国株式市場全体」という同じ物に投資していることになります。
そのためVTIはもちろん、楽天VTIもドルに対する為替リスクを抱えるというのは全く同じということになります。
楽天VTIの売買自体は円で行われますが、ファンドを買う人がいればドルに両替され本家VTIの購入資金になるし、ファンドを売却する人がいれば円を準備しなければならないので本家VTIを売却→ドルから円に両替という流れが発生します。(厳密な運用方法は不明ですが、これと同じようなことは起きているはずです)
そのため本家VTI同様、ドル円の為替変動に強く影響されます。
また、今回は米国市場のみを対象にする投信及びETFを例に挙げましたが、さらに広い範囲に投資する国際分散型ファンド等の場合、多種多様な通貨との為替変動が関係することになります。(これは通貨分散というメリットと考えることもできます。)
実質的な投資対象自体に為替リスクが存在するのであれば、円建てかドル建てかというのは売買ルールに過ぎません。
なので円建てだから為替リスクはないというのは間違いということになります。
逆に、「ドル建てだけど為替リスクがない」が成立するケースもあります。
例えば、東証一部上場銘柄である7203(トヨタ自動車)は円建てで取引されている日本株ですが、NY市場にもADRとして二重上場しています。(ティッカーはTM)
この2つは上場先が違うだけで同じトヨタ自動車の株式ですが、7203は円建て・TMはドル建てです。
「トヨタ自動車は日本企業だから為替リスクがない」と仮定するのであれば、ドル建て資産であるTMも株価がドルで表示されているだけで、為替リスクはないものと考えることができます。(日本株と為替リスクについては次の項目で解説します)
日本株には為替リスクがない?
一般的には日本株は為替リスクがなく、外国株には為替リスクがあるといわれています。
これは理論的には正しい解釈ですが、投資家が実際に求めている「為替リスクがない」とはちょっと違う気がします。
なぜなら日本企業でも海外で活動していれば海外通貨の影響を受けますし、国内のみで活動するとしても海外から材料を輸入したりしているからです。
日本は資源に乏しいため輸入に頼らざるをえなかったり、輸出企業が経済をリードしているという側面があります。
また、経済的にアメリカとの結びつきが強いため、特にドルに対する為替変動の影響で企業業績も大きく動いてしまいます。
海外売上比率が高かったり、輸入原材料への依存が大きい企業の場合は特に顕著ですね。逆に日本国内で事業が完結している場合、為替変動による業績変動も小さくなります。
世界中に拠点を持つ超多国籍企業の場合、もはやどの国に上場していてどの通貨で取引されているかというのは大きな意味を持たないのかもしれません。
一応、日本企業は「円建てで最大の利益を追求する」という目的があるので、為替変動を抑えるために企業内で為替ヘッジをつけたりしていることも考慮する必要があります。
それを踏まえても、「日本株は為替リスクがないから外国株より安心!」という考えは少し危険かもしれません。
余談ですが、NY市場にドル建てで上場しているフィリップモリス・インターナショナル(PM)というタバコ企業があります。
PMはNY市場に上場するドル建ての米国株でありながら、米国内での売り上げはほぼゼロ、海外売上比率ほぼ100%という非常に珍しい事業構成になっており、ユーロや新興国通貨等の影響を強く受けます。
そのためドル建ての米国株でありながら、米国人が投資する場合でも為替リスクが高めな銘柄になっています。
為替ヘッジ
さらに状況を複雑にしているのが、「為替ヘッジの有無」です。
個別株ではあまり一般的ではありませんが、投資信託やETFでは<為替ヘッジあり>と名前についている商品も多く、気軽に為替ヘッジを効かせた投資をすることができます。
日本人から見た為替ヘッジは、基本的に円を基準とした際の為替変動リスクを抑えるためのオプションとなります。
例えば円をドルに両替して米国株に投資する場合、株価(ドル建て)が上昇していてもそれ以上に円高が進んでいたら結果的に損失になってしまいます。
そんな時に為替ヘッジをつけておけば、円高の影響を受けずに利益を得ることができます。
ただし為替ヘッジには両通貨(今回の場合は円と米ドル)の金利差に応じたコストが発生するため、長期的には期待リターンを下げることになるといわれています。
また、為替ヘッジを付けたことで損をするパターンもあります。
株価(ドル建て)が下落しているけど、それ以上に円安が進んだ時などですね。この場合は為替ヘッジがついていると逆効果になります。
為替ヘッジをつけると為替差損がなくなる代わりに、為替差益を得る機会も失うことになります。
為替ヘッジが為替リスクを抑えるからといって、あらゆる場面でリスクを抑えるわけではないということに気を付ける必要があります。
為替リスクまとめ
箇条書きで要点をまとめてみます。
・円建てorドル建ては為替リスクと関係ない
・実質的な投資先が為替リスクを決める
・日本株でも為替リスクと無関係ではない
・為替ヘッジの有無を確認する必要がある
いずれも基本的な内容ですが、誤解されやすい部分でもあるのでしっかり理解しておきたいですね。
特に投資信託は、円で少額から取引できる分かりやすさが魅力ですが、その分基準価格の中に隠れている為替リスクを見落としてしまう可能性があります。
金融商品に限りませんが、何事もその中身で判断することが大切ですね。
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為替次郎